大学生が学んだ、学生フォーミュラのブレーキ設計

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今回は、大学生である自分が、学生フォーミュラで得た『ブレーキ設計の知識』を伝えていきます。

学生フォーミュラについては
負けるもんか ~YNFPを振り返って~ 学生フォーミュラでの経験①
で説明されているので参考にしてください。

ブレーキラインは2組

学生フォーミュラでは、ほぼ全校でディスクブレーキが採用されています。だから、フロント/リアそれぞれに分けて、ブレーキラインを組まなければなりません。レギュレーション上でも、2組のそれぞれ独立したブレーキラインでなければならない、と表記されています。
機能的には、1つのマスターシリンダーから4つのブレーキキャリパーに繋がっていてもいいのですが、2組である事には理由があります。
その理由の一つは「安全」のためです。

もし走行中に何らかの理由でブレーキラインが断線し、ブレーキに圧がかからなくなったら、減速の不可能なとても危険な車両になります。
ブレーキラインが2本に独立していれば、仮に1組のブレーキが効かなくなっても、もう1組のブレーキは作動するので、とりあえず減速することはできるのです。

また2組のブレーキラインに分ける事でメリットもあります。それは「前後のブレーキバランスの調整ができる」ことです。ブレーキペダルを踏むとき、左下の図のように、それぞれのマスターシリンダーに力が伝わります。
左下の図の赤くなっている部品ですが、これは「バランスバー」と言って、フロント/リアのマスターシリンダーへの力の割合を調整します。

YNFP-17のブレーキ

YNFP-17のブレーキ

バランスバー

バランスバー

バランスバーを回すことで左右に位置を変えることができます。ペダルからの圧力は真中の一番太い部分だけに伝わります。バランスバーを右に移動させれば右側のマスターシリンダーに伝える力が大きくなます。左に移動させれば左側のマスターシリンダーに伝える力が大きくなります。

バランスバーのメリットは、前後ブレーキバランスの調整が手軽にできることです。実際に走行してみて、ブレーキのバランスが悪いと感じたらすぐに調整できます。後で出てくる「設計」でも前後のブレーキバランスは当然考えるのですが、実際の車両はなかなか設計通りのバランスになってくれないものです。

また、走行条件によっても必要なブレーキバランスは変わってきます。いずれにしてもブレーキバランスの調整機構として、バランスバーは必要なのです。

余談ですが、遠隔でバランスバーを回転させることのできるケーブルもあります。これにより走行中でもドライバーが、ブレーキの前後バランスを調整することが可能になるのです。上記の理由で、学生フォーミュラでのブレーキは前後の2組になっているのです。

ブレーキの設計

次はブレーキの設計について説明します。設計とはいっても「マスターシリンダー」や「ブレーキキャリパー」などを、イチから設計製作しようとしたら、とてつもない時間と労力がかかってしまいます。

我々のチームでは、「マスターシリンダー」「ブレーキキャリパー」に関しては、スポンサーから支援していただいたものを使用しています。だから、設計というよりは選定です。順番に各部品と重要な要素を見ていきます。

ブレーキペダル

これがなければブレーキを踏めません。ブレーキペダルで重要なのは「レバー比」です。
「レバー比」とは、回転軸から踏面までの距離と、回転軸からバランスバーまでの距離の比のことです。これにより、ブレーキペダルを踏んだ力を、どれだけマスターシリンダーに伝えるかが変わります。

マスターシリンダーへの力が小さくてもダメですし、大きすぎても細かな制動力の調整ができなくなるので適正なレバー比が必要なのです。

マスターシリンダー

これはブレーキペダルを踏んだ力を、ブレーキフルードの液圧に変換する部品です。
この部品の選定で重要なのはピストン径です。マスターシリンダーは下図のようにペダル側から押され、ブレーキフルードがブレーキライン側に流れます。だからピストン径によってブレーキキャリパーに伝わる液圧が変わるのです。

YNFP-17のブレーキ

YNFP-17のブレーキ

では、ピストン径が大きい場合と小さい場合とでは、どちらの圧力が高いのでしょう?
圧力はN/m^2で表されます。
これは、一定の力でペダルを踏んでいる場合、ピストン径が小さい方がより圧力が高くなるという意味です。
これと先ほどのブレーキペダルの内容も合わせると以下の式のようになります。

[液圧=踏力×レバー比×バランスバー比/マスターシリンダーピストン断面積]

フロント用とリア用のマスターシリンダーで、バランスバーの比が変わります。
これによって前後の液圧が変わるのです。

ブレーキキャリパー

「ブレーキキャリパー」も「マスターシリンダー」と同様に、ピストン径が制動力に関わります。またマスターシリンダーと違い、ブレーキキャリパーには複数のピストンがあります。この複数あるピストンでブレーキパッドを押し、ブレーキパッドがブレーキローターを押さえ付けるのです。

対向2ポッドブレーキキャリパー

対向2ポッドブレーキキャリパー

片押2ポッドブレーキキャリパー

片押2ポッドブレーキキャリパー

対向4ポッドブレーキキャリパー

対向4ポッドブレーキキャリパー

片押と対向のキャリパーの違いは、片側のパッドだけを押すか両側のパッドを押すかです。これを先ほどのマスターシリンダーと同じように考えると

[パッドを閉じる力=液圧×キャリパーピストン断面積×ピストン数×2]

となります。

最後の「×2」は、1つのマスターシリンダーから左右2つのキャリパーに伝わっているからです。対向2ポッドと片押2ポッドで制動力の優劣はありません。

しかし対向の場合は、両側からパッドを押すため、偏らずにパッドを押すことができます。これによりパッドが偏摩耗になりにくくなります。

一方、片押しではキャリパーがホイール側に飛び出る量が少なくなります。これにより、ハブの長さを短くすることができ、回転物の軽量化ができるというメリットがあります。

ブレーキローター

「ブレーキローター」とはタイヤと一緒に回転しています。ブレーキペダルを踏むと、ブレーキパッドがブレーキローターを押さえ付け、車両が減速します。

制動力に関わるのは、ブレーキローターの直径です。実際の制動力は先ほどのパッドを閉じる力とイコールではありません。ローター径とタイヤ径の比によって変わります。
モーメントの釣り合いを考えれば簡単ですが、

[制動力×タイヤ径=パッドの摩擦力×ローター径]

となります。

またここでいうローター径は、正確にはブレーキローターとブレーキパッドとで摩擦が発生している部分になります。だからブレーキローターの外径ではなくパッドが当たっている部分の径です。

パッドの摩擦力は、先ほどの「パッドを閉じる力」に「ブレーキパッドの動摩擦係数」をかけた値になります。
こうしてようやく制動力が求められるのですが、実際には更に「ブレーキ効力係数」と呼ばれる値をかけます。これは一般に0.6~0.9程度といわれています。実際の走行では各部品や路面などによって様々なロスが生じています。それを考慮して補正する値です。

こうして求められるのが「実制動力」と呼ばれる値で、ブレーキを踏んだ時に実際に発生する制動力です。

次に、実際の走行においてどの程度の制動力が必要なのか知らなければなりません。これは「理想制動力」と呼ばれています。各減速度において前後のタイヤに必要な制動力の値のことです。理想制動力は以下の式で表されます。

[フロント理想制動力
=減速度/重力加速度×(前輪静的荷重+減速度/重力加速度×重心高/ホイールベース×車両総重量)
=減速度/重力加速度×前輪動的荷重
=減速G×前輪動的荷重]

これは減速Gの関数になります。
走行で必要な減速Gと相談しながら必要な制動力を決め、それを満たす実制動力になるように設計します。

設計の際は以下のような「フロント制動力」―「リア制動力」のグラフに「実制動力直線」、「理想制動力曲線」を描いていき、部品の検討をします。

制動力のグラフ

制動力のグラフ

ブレーキの設計は以上のようになります。
次にここまで紹介してこなかった他の部品を紹介します。

プロポーショニングバルブ

通称Pバルブです。これはブレーキの油圧を下げる部品で、用途はバランスバーとほぼ同じです。バランスバーとの違いは、一定圧力以上で作動するという点です。

バルブを調整することで、どの程度の圧力で作動するか調節することができます。作動すると、入力圧力に対する出力圧力が低くなります。

しかしながら、用途がバランスバーと被っているため、バランスバーのない一般的な自動車用の部品です。ブレーキラインの途中にPバルブを組み込み、リアの制動力を下げるために使われることが一般的です。

過去のマシンで搭載していたことがあるのですが、Pバルブによってリアブレーキラインのエア抜きが、なかなか出来なかった思い出があります。

プロポーショニングバルブ

プロポーショニングバルブ

ブレーキフルード

ここまで出てきませんでしたが、ブレーキと切っても切れない関係にあるのが「熱問題」です。

学生フォーミュラの周回走行では、1周約1kmのコースを20周します。大会は9月に行われ、大抵気温は高く、熱対策は欠かせません。過去には走行の途中でペダルがフカフカになり、ブレーキが効きづらくなったこともあります。

とはいえ熱対策をできる箇所は多くありません。

まず一つ目は「ブレーキフルード」の選定です。シンプルに沸点の高いフルードを使えば、ブレーキフルードの沸騰は避けられます。しかしフルードのDOT数が上がれば粘度が上がるので、極力避けたいです。

ブレーキローター

二回目の登場ですが、熱対策をするならローター形状の検討です。他部品と違い、ブレーキローターは板物のレーザーカットによって、比較的自由に設計することができます。だから、肉抜きをして放熱性の良いブレーキローターを設計します。

また、ローターの厚さも熱容量に関わってくるので検討します。これらの放熱性に関しては、制動力のように決まった計算式はありません。だから解析ソフトを使い、形状を模索します。

その他の熱対策の手法としては、ブレーキダクトがあります。
キャリパーやローターはホイール内に隠されているため走行風が届きにくい。だから「ブレーキダクト」を設ける事により、車輛の内側からホイール内に風が流れるようすれば、キャリパーやローターの温度を下げることができます。

現状我々のチームではブレーキダクトは採用していません。ブレーキダクトがあればブレーキローターをより薄くして、更なる軽量化が見込めるかもしれません。熱解析次第です。

ブレーキの設計に関しては以上となります。
今回は書けなかった細かな部品やエア抜きについてなど、伝えたい事がまだまだあります。ブレーキは奥の深い部品です。根気よくエア抜きをしていると、自然と愛着が湧いてくるので不思議なものです。

皆さんも改めて自分の車のブレーキを見てみてはいかがでしょうか? 新たな発見があるかもしれませんよ。

(執筆:横浜国立大学フォーミュラプロジェクト(YNFP))

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